穏やかな光がオレンジに染まりだしたころ、朱色の木々の隙間に何かを琴菜が見つけた。
「……城壁?」
忽然とそびえるそれは漆喰が所々はがれているが堅牢な石造りで内部を懸命に守っているかのようにも、外部からの侵入を拒んでいるようにも見えた。
「街だろうな、人がいるはずだ」
微かに安堵した様子で澪が呟く。
「まぁ、住民が友好的とも限らないし、人間ですらないものがいるのかもしれないがな」
「それでも行くしかない、だろう?」
琴菜が城壁を見据えたまま言うと、そのとおりだ、と澪が頷いた。
「おなかすいたなー、ついたらごはん食べたいなぁ……」
春日が二人の空気お構い無しにぽつりと呟いた。

目標が見えると気分も持ち直す。早足にそちらに向かう。
見上げるような城壁には不釣り合いに小さい城門があり、周りを耕して作った畑で男達が農具を振るっているのが遠目からも分かる。多くの布を使い全身を覆った人々の服装や、西洋の農村のような雰囲気から日本では無い事は明らかだった。
「この国の言葉が知ってる言葉ならいいのだが……一応すぐに逃げ出せるようにはしておいたほうがいい」
澪が眉間に軽くしわをよせて呟いた。
不意に近くにいた男達が三人に気付いた。彼らはなにか二、三言交わすと一人は街の中へ、残った三、四人がこちらへと近づいてきた。
人のよさそうな老爺がにこにこと語りかけてくる。
「もし、変わった服装ですが旅のお方ですかな?」
彼の口からでてきたのはその衣装に似合わぬ流暢な日本語だった。
驚いて思わず顔を見合わせる。
「いや、旅のものというか……」
悩む琴菜の声に被さるように澪が
「ああ、どうも道に迷ってしまったらしくてな。ここがどこかお尋ねしたい」
毅然とした口調で言った。
「ふむぅ……」
老爺はしばらく何か考え込む。その間にさっき別れた一人が人を引き連れてやってきた。
引き連れてきた皆人間は少なからず武装している。
「やばい感じか?」
琴菜が澪にぼそっとささやく。
「……好意的ではさっぱり無いな」
澪が苦い顔で返す。考え込んでいた老爺が顔を上げた。
「申し訳ないが、わしらはほいほい人を街に入れられないのじゃよ」
周りの人間が武器を構える。
緊迫した空気の中、
「よかったね!人一杯だね!」
春日だけがにこにこと喜んでいた。

「何処からおいでになったか、お話ねがいましょう」
老爺の側に立つ若い男が警戒心もあらわに言い放つ。
「要請ならともかく、強制されるのは嫌いでね」
無表情だった顔に侮蔑の色を含ませて澪が言い返す。
険悪なムードに琴菜が澪を諌めようとしたとき、人垣の向こうで小さな騒ぎが起こっていることに気付いた。
「誰か、来るね」
春日の言葉通り、人垣をかき分けるように青年が一人、三人の目の前に姿を現した。

細身の長身、蒼白色の髪、浅黒い肌。右の瞳は布と赤い石をあしらった眼帯で隠され、露わになっている左の瞳は濁った金色。
首周りの広い服から覗く右の首筋には火傷だろうか、ケロイド状になった広い範囲の傷痕。右の手のひらには指先だけ空いた手袋をし、左の腰に細く長い剣を下げている。
若草色の上着と薄い黄色のズボン、革のブーツに身を固めた青年は澪達からわずかにずれた位置に視線を合わせていた。
地位のある人間なのか、周りの人間が判断を委ねるように彼を通す。

「……中央からの者では無いようだ、服装もずいぶん異なる」
「しかし……!!」

左の瞳が反論しようとした青年をとらえた。

「武器も防具も身につけず、たった三人で攻撃に来るとも思えないだろう?」
掠れたバリトンが正論らしき物をはいたらしい。
その声をきっかけに人垣が崩れ、武器を降ろした人々は街に帰って行った。

「やはり……この世界の服では無いな……」
「はぁ?」
一人で納得している青年に三人は疑問をぶつける。
「さっきのは何だったんだ?」
「ずいぶんと手荒な歓迎だな」
「ご飯ある?」
一気にぶつけられる質問に動じることなく、青年は少し苦労して澪に視線をあわせた。


「お前達は……ココではないどこかから飛ばされて来たんじゃないか?」


「!?」
「……どうして、そう思う?」
澪の質問に青年は視線をそらした。
「……俺の名はルギネス。……俺が……お前達を呼んだ」
「お前が!?」





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